開催趣旨
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本事業は、弘前市が生んだ世界的アーティスト、奈良美智(ならよしとも)の展覧会を全て民間ボランティアの手により、生まれ故郷で開催することによって、津軽地域の文化振興を図るものであります。この展覧会はアーティスト奈良美智自ら作品を選び構成する展覧会です。奈良の記憶の深遠にしまわれていた珠玉の初期小品(1980年代に制作)から最新作のドローイング、絵画、写真、立体作品、インスタレーションなど合わせて百数十点が展示されます。過去、現在、未来が交錯する空間を、奈良の故郷、弘前にたたずむ大正時代の酒造所「吉井酒造煉瓦倉庫」に出現させます。
奈良美智(1959年に弘前市生まれ)は、日本のアートシーンのトップランナーとして、国際的に今最も注目されている現代美術作家です。奈良の描く独特のにらみ目の子供は、人々を魅了し、不思議な元気を与え続けています。
奈良の生まれた街には、日本で初めてリンゴ酒を造った赤煉瓦の巨大な醸造倉庫が残っています。2000年夏、アトリエを構えたドイツから久しぶりに帰国した奈良は初めてこの煉瓦倉庫の中に入り、その空間の美しさに魅了されました。
本展は、奈良という一人のアーティストとこの煉瓦倉庫の空間の出会いに端を発しています。この展示を通じて、奈良の作品を作家の故郷の人々に紹介するのと同時に、本展を契機として、アーティストを魅了する煉瓦倉庫の空間の力を発露させ、ここに最先端のアートの輝きを灯し続け、国際的なアートの拠点形成の起爆剤となることを願って開催されるものです。
2002年夏。ボランティアスタッフ延べ3500人。入場者数6万人。人々を興奮と感動に包んだ「奈良美智展 I DON'T MIND, IF YOU FORGET ME,」から2年。吉井酒造煉瓦倉庫に奈良美智が戻ってきます。
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―桜の花にのって―
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弘前に桜の花の咲くころ「吉井酒造煉瓦倉庫」に再び奈良さんの作品がやってきます。展覧会のタイトル「From the Depth of My Drawer」は、「自分の引き出しの深みから」という意味です。国際的に活躍し続けている奈良美智というアーティストが、いまに至るまでには様々な試行錯誤の繰り返しがありました。本展は、あたかも作家自身が自分という引き出しの奥深くに眠っている可能性を探り内省するように、自ら画家として軌跡を振り返る、奈良さんの心の動きに近づけるような温かな展覧会です。
今回の展示は、初期から現在にかけて(1984年―2004年)の作品の中から奈良さん本人が出品作品を選び、構成しています。奈良さんは今回の個展についてこんなふうに語っています。「90年代に入ってから、なんとか自分らしい絵を描けるようになった気がします。そして2004年現在、試行錯誤しながら良くも悪くも絵は洗練されていったような気がします。それは方向性が絞られていったということなのですが、それを実行するなかで捨てなければならなかったいろいろな可能性もあったのも事実です。近頃、もしかしたらその可能性たちこそが本来の自由な自分の姿であったかもしれない、と思うことがあります。・・略・・・置き去りにされた可能性の見え隠れする作品も加えて、今の自分を自分なりに再考する展覧会です。」その可能性は、桜の花のようにそっと消えていくかもしれませんし、これから美しく花開くかもしれません。
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―置き去りにされた可能性―
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80年代から90年代のペインティングや、ドローイングには後に奈良さんの作品の主役として登場する様々なモチーフや後には見られなくなるモチーフが見え隠れします。作品が出来上がる場での思考や揺らぎ中で、行われた選択の結果が現在の奈良さんの作品へと繋がっています。しかしその過程で「置き去りにされた可能性」があり、それが本当の「自由な自分の姿」であったかもしれないという想いは、意識的にも無意識的にも人生の様々な段階でいろいろなことを少しずつ選択してきた結果の今を生きている私達にも共感できるところがあるでしょう。ペインティングやドローイング、立体、写真など様々な方法で表現してきた奈良さんが、今「置き去りにされた可能性」とじっくり向き合い、これをまた新たな可能性として発展させていくのではないでしょうか。
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―Drawing―
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ドローイングは、単に下絵と一くくりに出来ない深淵さがあります。人はぼんやり考えていることを具体化するときにデッサンを書いたりして考えを纏めます。ドローイングとは人の心の動きをとどめるものなのです。奈良さんのドローイングには、奈良さんのアイディアがたくさん詰まっています。今回の展覧会には、このドローイングが多数出品されます。
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―graf―
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2003年から奈良さんと一緒に仕事をしている、ものづくりの職能集団grafメディアが、今回の展覧会でもコラボレートし、奈良さんが大切にしている温かな展示空間を小屋という形で実現します。ここで作られる小屋は、機械的に作られたようなものではなく、人の手のぬくもりが感じられるような空間なのです。会場となる「吉井酒造煉瓦倉庫」は奈良さんにとって特別な場所です。美術館のホワイトキューブの展示室とは異なる、古い歴史が重ねられたこの場所で、さらにgrafの制作する小屋−小さく区切られた空間−が、ふわっとして優しい、けれど、ちょっと切ない作品たちを包みます。
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